部屋の外が騒がしいのに気がついて、彼女は書類をめくる手を止める。
 計ったかのようなタイミングで乱暴に扉が開き、現れたのは見知った漆黒の青年。
 いくら雲の守護者だとは言っても、アポの一つは欲しいものだと眉をひそめたところで、雲雀恭也が口を開いた。
 珍しく思いつめた表情。

「君が好きなんだ、



 猛獣と科学者の会話 



 自分の手をとる物憂げな雲雀の表情に、彼女は沈痛な面持ちで言った。

「…誰からの罰ゲームですの、これは」

 とられた手が鳥肌立っている。相手の手にしてもそれは同じことだ。

「僕が綱吉以外の言うことを聞くとでも?」

 忌々しげに吐き棄てる。
 内容も聞かずに迂闊に約束してしまった自分が恨めしい。
 約束は約束だから実行したが、戻ったら絶対噛み殺す。
 決意も新たに踵を返そうとした彼を暢気な声が引きとめた。

「まあ普通に考えればそうでしょうけども、ツナさんは自発的にこういう趣味の悪い催しを考え付く方ではありませんよね」
「……」

 ようやくそこに思い至ったのか雲雀が沈黙して、彼女を見下ろした。
 彼は本来頭のいい人間のはずだが、よほど施行された罰に混乱を来たしていたらしい。
 それがおかしくて微笑しながら彼女は小首をかしげ、綺麗な顔を見上げた。

「あなた、彼にこんな仕打ちをされる覚えはありまして?」
「…僕に仕返しする度胸なんて、綱吉にあるわけないじゃない」

 でしょうねとあっさり首肯して、彼女は思いつくまま言葉を紡ぐ。
 彼も人間。愚かな過ちをしないとは言わないが、よほどの覚悟がなければできないだろう。
 彼がそこまで怒っていたら別だが、ここ最近彼の機嫌を損ねるような事態が発生したとの報告は無い。
 その程度の情報網は彼女にもあった。

「それとも最近『こういった趣味の悪い催し』を思いつく輩が彼の近くに居たのでしょうか」

 思い当たるところがあったのだろう、みるみる間に雲雀の表情が険しくなっていく。

「あんの電波っ!!」
「ああ、六道ですか。彼らしい嫌がらせですわね」

 遠まわしに自分にまで精神的ダメージを与えるところがとても。

「まあ、仕返しはほどほどになさいませ。私の分がなくなりますし、何よりツナさんにますます怯えられてしまいますわよ」
「……君が僕の心配するわけ?」
「あら駄目ですか?」

 私それほど貴方のこと嫌いじゃありませんのよ。
 そう続けると相手は数度瞬いた後、苦笑を浮かべた。

「僕もそれほど君は嫌いじゃないよ」

 滅多にない珍事には驚き、それから納得する。
 ボスが落ちるわけだ、と。

(この顔でこのふい打ちは卑怯ですわ)

 そんな彼女の心中には気付かずに彼は黒のコートを翻す。

「じゃあね」
「ええ。また、そちらにお伺いしますわ」
「…アレは僕のだよ」

 子供のような言い様に、苦笑がもれる。

「わかっていますわ。私も六道にお礼がしたいだけです」
「ならいいけど」

 十分の一くらいは残しといてあげる。
 そう言って黒色の青年は、その部屋から消えた。

「ここ四階なんですけれどね」

 言っても無駄かと彼女はため息を吐く。
 開け放されたままの窓から風が入り、書類が舞う。
 面倒だとは思いながらもは頬が緩むのを自覚していた。
 この青い空の下、同じように書類に埋もれているだろう青年に彼女は呼びかける。

(ツナさん、慣れない獣に懐かれるというのはこういう感じなのでしょうか)





















  【あとがき】 H18.11.22
  番外篇。ヒロインと雲雀の関係。「貴方に〜」から数年後。ひばつな成立後になります。
  お互いにちょっと丸くなってますでしょうか。骸のほうとは…そのうちまた書きます。
  付き合う前はひばりさんは「沢田」呼び。付き合い始めてから「綱吉」かな、とか。どうでもいい設定でした(逃走)


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