第三幕
「なるほど、それは大変だったわね…」
依頼主の正体や任務内容を誤魔化して簡単に事情を話すと、つい先程殺されかけたばかりの少女が同情するようにカカシたちの顔を見回した。
「よし。じゃあ、その宿まで私が案内しましょう」
ぽんと胸を叩く。
「えっ、ほんと!?」
「ほんと、ほんと。さっきのお礼もしたいしね」
やったーと喜ぶサクラとナルトに微笑みつつ、
「それに、わたしもその宿に用事が出来たから」
少女がぼそりと呟くのをカカシとサスケは聞いた。
(用事が出来た…?)
(…どういう意味だ?)
何より、その声に感じた悪寒は何だったのだろう。
困惑する二人をよそに、
「では、行きますか」
と言う少女を先頭に、一行は道を進み始めた。
どうやら迷っている間に、正反対の方向に歩いてしまっていたらしい。歩きだと一時間ほどかかるだろうということだった。
だが、道中はさほど苦にはならなかった。
道すがらと名乗った少女は、あっという間に七班と打ち解けてしまったのだ。
火の国のことを興味津々の様子で聞いていたかと思えば、木の葉の里の『甘栗甘』のお勧めは何かとサクラと盛り上がったりする。
「まあつまり。今のこの国じゃあ地上の言葉は一種の暗号、もしくはブランドみたいなものなのね。こうやって空に上がる前にも、他の国と共用の言語とは別に、もともと独自の文字を持ってたってのが直接の原因じゃないかな」
話題がやがて空の国の事情に移ったころ頃。
はい!と元気良く挙手したのは、ナルトだった。
「なー、質問! は何でそんな格好してるんだ?」
ナルトの言葉には己の体を見下ろして、ああこの格好ねと頷く。
ダボダボのTシャツに、七分丈のズボン。腰にはベルトつきのポシェットを下げている。
髪を野球帽に仕舞い込んだ上、Tシャツについたフードを被ったその姿は、一見少年のように見えなくもない。
「変装。まあ、役に立たなかったけどね」
肩を落とす。
と、いままでほとんど口を開かなかったサスケが久々に口を利いた。
「…あいつは何者だ? 何故あんたが狙われていた」
「あ、それ俺も知りたいな。あと、君がどういう人なのかも」
いずれ、その質問が来ることを予想していたのだろう、はすらすらと答えた。
「えーと、あの人は忍者。で、私が襲われたのは偶然。それから、わたしは牡羊座のO型で、趣味は音楽鑑賞、特技は舞踊です」
「うわ、答える気ゼロだね…」
「しかも、棒読みだわ」
「……星座も趣味も聞いてない」
「それじゃ全っ然、意味分かんないってば」
不満げな四人に構わず
「因みに嬉し恥ずかしの十八歳です」
平坦な声で告げる。歳の話題は、都合が悪くなったときに使う彼女の常套手段だ。
反応は、彼女の予想通り大きかった。
予想通り過ぎて、悲しいくらいである。
「えぇ!? 嘘、だって」
と自分と同じ高さにある顔をまじまじと見つめるサクラ。
「…どう見ても俺らと同じ歳だろ」
サスケが信じられないと言うように呟けば、
「頑張って大目に見積もっても十四・五って感じなんだけどね」
カカシも目を見開いて同意する。
背格好に、帽子の下から見える口元。
どれをとっても十八とは思えない。
疑問符を浮かべ腕を組んだのは、残りの一名。
「うーん、でも帽子で顔はっきり見えないし。実は顔はふけ――」
にっこりと、極上の笑顔を向けられてナルトは口を閉ざした。
それを見て、宜しいとでも言うようにが鷹揚に頷く。
が、内心のダメージはかなりの物だった。
(…話そらそうとして自分の傷口抉っちゃったよ…)
少しだけ目の端に涙が滲む。
「でもさ、が悪いんだぞ? オレらの質問無視すっから!」
すかさず、ナルトが痛いところを突いた。
としても、これ以上誤魔化し続けるのは不可能と踏んだらしい。
盛大に一つ溜息。
「聞いてどうするの、そんなこと」
「どうするって…」
困惑するサクラに苦笑した声で、が問う。
「知れば、もう貴方たちは後戻りできないかもしれないよ。いいの? 任務があるから、この国に来たんでしょ。それとも、任務そっちのけでわたしを助けてくれるとでも?」
「そ、それは…でも!」
「…確かに、そんなことは無理だな。任務は絶対だ」
「さ、サスケくん!」
だが、とサクラを目で黙らせてからサスケはを見る。
「俺たちが、あんたの命を救ったのはすでに変えようのない事実。事情を聞く権利くらいは充分あると思うが?」
「そうだねー、どうせあちらさんの邪魔した時点で、もう後戻りできるとは思ってなかったし?やれることはやっとかないと後味悪いよなぁ」
「そうそう。相手が何処の誰だろうと、は助けるし、姫さんだって守り抜くんだってば! なんたって、オレは火影にな」
ゴイン、と小気味の良い音にナルトの声が途絶えた。
「〜〜っっ!?」
痛みで声もでないらしい。
「お前ね…」
「ウスラトンカチが…」
軽く頭痛を覚え始めた二人の横で、サクラが握った拳を静かに下ろす。
「あーんーたーね」
「っ〜…? さ、サクラちゃん、なんか目が据わってない?」
「な・に・をふつーに、任務内容バラしてんのよ!! 自分が忍びだって自覚あるの!?」
「…あ」
「あ、じゃない! この馬鹿!!」
ぷっ、と誰かが噴出した。
「…?」
カカシとサスケ、ナルトだけでなくサクラも思わず怒りを引っ込めて、訝しげにを見る。
くつくつと楽しげに肩を揺らす少年もどき(十八歳、女・自己申告)は、目尻に涙をためていた。
「?」
この時、七班の心は珍しく一つになった。
一体何が彼女を今の状況に追いやったのだろう?
「ご、ごめん。ちょっと待って……うん、気に入った」
何とか笑いを収めながら、最後に独り言のように呟く。
「…何が、気に入ったんだってば?」
ナルトの問いには、意味ありげに微笑むだけ。
「事情はちゃんと話すよ、きちんと順序立ててね」
実は初めからそのつもりだったのだと、彼女は言う。
「けどま、とりあえず。到着いたしましたよ、お客様方?」
「え?」
「あ」
「おや」
「…いつの間に」
唐突に言われて前を向けば、宿と言うよりは旅館と呼ぶべき規模の建物が目前に。
「因みにあのメモにもあった、この宿の名前は『月桂樹』よ。この辺じゃ、一番有名な宿泊施設がここなの」
「有名?」
「そ、大名家の姫君御用達だから」
気後れする様子もなく、は平然とその門を叩いた。
の通訳のお陰で、何の問題もなく宿の主人に事情を説明することが出来た。夜遅くの訪問にもかかわらず、主人は丁寧に応対してくれている。
「ふうん」
「どうかしたの、」
「いや。そのオキナさん、もうこっちに来てるって、主人が」
「え」
「あー、もう十一時とかだもんねぇ。結構迷ってたし、俺たち」
「ついさっき、慌てた様子で姫さんの部屋に行ったままらしいよ」
彼女がそう訳したた後、主人がに何事か話し掛ける。
「ん、わかった」
何やら思案中といった雰囲気になった彼女に、ナルトが痺れを切らした。
「あの人、何って言ってたんだってば」
「うん? ちょっとね…いや、いーよ。自分たちで行けるから」
ナルトたちに構っていたせいでつい地上の言葉で答えたが、手を振る動作で十分こちらの意図を掴んでくれたようで、主人は恭しく一礼して持ち場へ戻った。
それを見たは軽く苦笑する。
(流石と言うか…うーん、今度暇があったら変装の仕方誰かに習おう)
「自分たちで行ける? どういう意味だ」
「どうも立て込んでるみたいだから、わざわざオキナさんとやらを呼ぶ必要もないかな、なんて。駄目だった?」
「駄目も何も…お前、何を企んでる?」
企むって何のこと? と、至極不思議そうに問い返されればサスケとしても黙る他なく。
同じ疑問をもつ三人も、従うほかがない。
まるで以前から知っていたかのように迷いなく、は通路を行き奥へ奥へと進む。
暫らくの沈黙の後、やがて彼女はその引き戸の前で足を止めた。
「ここ、だってば?」
ドアを敵のように見つめたままのは、答えない。
と、唐突にガラリと戸が開く。
「――ともかく、私はもう一度外へ…」
「あ、オキナさん!」
名を呼ばれた彼は、部屋の中に向けていた顔をこちらにやって目を見開いた。
「みなさん!」
「すみません、遅くなりまして」
頭を下げるカカシをが諌めた。
「カカシさんが謝ることなんてないわよ、悪いのは言葉と文字の違いを忘れてたこの親父なんだから。…ねぇ?」
オキナが書いたメモをひらひら振りながら、。最後の同意を求める呼びかけは、オキナに向けられていた。
「!」
カカシが諌め、サクラが慌てて事情を捲くし立てる。
「ご、ごめんなさい! 実は今まで道に迷ってしまってて。この人に、この宿まで案内してもらったんです…オキナさん?」
サクラが訝しく思うのも無理はない。
失礼な物言いに顔を顰めた彼の顔から、の姿を目にしたとたんにサーっと音を立てて血の気が引いたのだから。
「な。ど、どうして、貴女が彼らと…」
「うん? もちろん迷子の道案内だよ。わたしってば親切だから。でも、水臭いなー。城下に下りてきてたなら、教えてくれればよかったのに。わたしが近くに居るの知ってたでしょう?」
表面上はどこからどう見ても親しげな物言いに、一同は困惑する。
「え、知り合いなの? オキナさんと」
「うん。結構長い付き合いよ、ねぇ?」
「と、とりあえず、中にお入りください。木の葉の方たちは、ひ…姫様がお待ちですから」
促され、彼の後に続いた一行はだから耳にすることはなかった。
の意味ありげな呟きを。
「ふーん、姫様、ねぇ?」
ずずっと、が出された茶をすする。
「はー、やっぱりお茶は玉露よね」
オキナに通された応接間の一室。
扉を入ってすぐのその部屋の広さは、流石に姫君が泊まる部屋だけのことがあった。
横手の縁側の向うにあるガラス戸のカーテンは開け放たれており、外は純和風の庭園になっている。
茶菓子に手を伸ばしたところで、ナルトに半眼で睨まれは手を止めた。
「で?」
いつも明るい声がかなり低い。
「…でって?」
伸ばした手をすごすごと戻して、改めて座卓を囲む他の面々を見回せば何やら不穏な雰囲気。
オキナにこの部屋で待つように言われ、約半時。いい加減業を煮やしたのだろうか、という彼女の思いを読み取ったかのように、立ち上がってナルトが絶叫した。
「順序だてて事情は話す、そう言ったのはだろ!」
どうやら業を煮やしたのはに対してらしい。
「こら、ナルト。行儀が悪いから、机の上から足をのけなさいって」
カカシが言うが、ナルトは聞いていない。
因みに様々な場合を想定し、忍は任務中大抵室内でも靴を履いている。
もちろん外を歩き回っていたときのものからは履き替えている。どちらにしても、ナルトの行儀の悪さに替わりはないのだけれど。
「ああ、そのこと。だって、いつお呼びが掛かるか分からないでしょ。そしたら、話が途中になっちゃうかもしれないと思ったんだけど。…と言うか、お姫さんに準備があるにしても遅くない?」
「そういえば…」
自分たちの到着を待っていたと言う割には、時間が掛かりすぎだ。
「そうそう。あの人が出て行ってから大分後に入れてもらったお茶だって、もう冷めてきてるし」
もう一度湯飲みを持って、。
それを戻してから、今度こそお茶菓子を掴む。
「」
「なんでしょう、サスケくん」
「お前、今話し反らしただろ」
「「あ」」
ナルトとサクラが仲良く同じように口をあける。
ぎく。
「あぁー!! 今ぎくってなったろ、ぜってぇー!」
今だ机に足をかけたままの少年が指した指を面倒臭そうにびしりと払って、ようやく観念した。茶菓子の封を切りながら、一つ息を吐いて、
「…だって、わたし一人で説明してくと絶対時間が掛かるし、簡単に納得してもらえるとも思えないし。まあ、もう一つ理由がなくもないんだけどそれはともかく。第一、ほんの一言で貴方たちの疑問に全部答えられる方法があるんだもの」
そっちの方がよっぽど効率的でしょ?
一息に言って茶菓子として用意されていた饅頭を一口サイズに千切って、口に入れた。
「効率的って…」
「大丈夫、どっちにしても事情はちゃんと話すから。約束する」
言ってから、少し首をかしげては右手の甲で右目をこする。
と急に、苦々しげな顔になった。
「あの馬鹿、また懲りもせずに…」
「「…?」」
「どうしたんだ?」
「…?」
手から、ぽとりと茶菓子が落ちる。
同時に、ぐらりと少女の体が横に傾き、頭を畳みに打ち付ける――寸前、机の上を飛び越えたナルトに支えられた。残る三人も慌てて立ち上がり、駆け寄る。
「…寝てる」
「へ? そんな。だって、急すぎるわ」
「おい、カカシ」
の食べさしの饅頭をサスケから受け取って、一通り眺め鼻を近づけて。
カカシは眉を潜めた。
「…睡眠薬、それもかなり強力だ。…どういうことか説明していただけますか、オキナさん」
コトリと襖が開く。
子ども達の眼光に苦笑して、オキナは口を開いた。
「いや、ご迷惑をおかけして申し訳ない」
「どういうことだ」
「じつは、その娘は家出中の身でして。親御さんに、もし彼女を見かけることがあれば連絡して欲しいと頼まれていたんですよ」
「だからって、何で薬なんか!」
「お嬢さん、その娘が素直に言うことを聞くと思いますか?」
「……」
(確かに思わない、けど)
ちらりと、ナルトに支えられた少女を見やる。
サクラが彼女に出会ったのは、ほんの二時間前。
けれど、その僅かな時間の付き合いでも、彼女がこうと決めたらてこでも動かない人間だと言うことは、充分すぎるくらいにわかった。
恐らく、命の掛かった場面でさえは己の意思を貫き通すだろう。
しかし、だ。
「それでも、実力行使に出ていいっていう理由にはなんねーぞ」
カカシにを預け、黙っていたナルトが殺気を向ける。
「…確かに、そうでしょうね。けれど、これがその娘のためなのです。どうか、私を信じて彼女を私に預けてくれませんか」
「フン。信じろも何も、これだけ忍を集めて来て置いてよくもそんなことが言えるな」
サスケの揶揄に、オキナが目を軽く見開いた。
「…気付かれましたか。気配は殺せと言っておいたのですが…あれらが未熟なのか、それとも貴方がたの腕が余程のものなのか」
多分両方でしょうね、と彼は肩を竦める。
「オキナさん。もう一度聞きます。どういうことか説明して頂けませんか? これでは、私どもも反撃しないわけにもいかない」
「申し訳ありませんが、…お教えするわけには行きません。――お前たち」
その声に応じて、十数の影がナルトたちの周囲を取り囲んだ。
「カカシ先生!」
依頼者との対立。
予想外の展開に戸惑うサクラの肩を、カカシがを担いでいない方の手で叩く。
「落ち着け、サクラ。…お前らはどうしたい?」
問われた少年二人は、にやりと口角を吊り上げた。
「こんだけ忍が居るなら、オレたちがいなくても姫さんは大丈夫だろ。ならオレは、を護るってば」
「同感だな。こんな待遇を受けてまで、任務を優先させようと思うほどお人好しになったつもりはない」
「やっぱ、そう来るのね。はぁ、火影様になんて言い訳しよっかなぁ。…そういうわけだから、サクラ。覚悟しろ」
「はい!」
一触即発。
張り詰めた空気がその場を支配する。
何が戦闘の合図になってもおかしくはない、その沈黙。
それを破ったのは、新たな甲高い少女の声。
「やめてください! もし、その方たちに手を出したら、あの人がどういう行動に出るか!! 貴方ならば分からないはずはないでしょう!?」
勢い良く開かれた、襖の奥から焦った様に駆け込んできた小柄な少女の髪は紅。
金の瞳をオキナに向け、彼女は彼に懇願する。
(あの顔は…)
集合した際に見せられた写真が、同時に七班全員の頭をよぎる。
「華玖弥様。危険ですから、お下がりください」
忍の一人が、それを裏付けるように主君を呼んだ。
が、構わず彼女は木の葉の忍を振り返る。
「貴方がたも。此方の非礼は心からお詫びします。けれど、その人のことは私たちに任せてください。決して悪いようにはしませんから」
憂いを含んだ瞳。化粧を施した彼女の顔は、写真で見る以上に整っている。
彼女が本来の依頼人。
だが、だからと言って、「はい、わかりました」と言えるほど、ナルトたちもおめでたくできてはいない。
「一つだけ、教えてくれませんか」
カカシが自然体で、しかし隙を見せることなく姫君に問う。
「私に答えられることなら」
彼女の姿勢はどこまでも真摯で、だから下忍たちはカカシから質問を引き継いだ。
「…私たちがを見つけたとき、彼女はこの国の忍らしき人物に襲われていました」
「俺たちが助けなけりゃ、今ごろ確実にこいつは殺されていただろう」
「あんたらがそいつの仲間じゃないっていう証拠はあんのか?」
返答如何では、すぐにでも臨戦態勢に入るつもりだった。
けれど。
「な、殺されて!? まさか、あの者たちが」
「いやしかし、どうやって居場所を。貴方がた、相手はどんな奴かわかりますかっ!?」
声をあげたのは、姫だけでなく。オキナも驚愕したようにナルトたちに詰め寄る。
その様子はとても演技とは思えないもので、あの忍と彼らが関係ないということは良く分かった。しかし、彼らの反応の仕方は。
「あんたたち、こいつの事情とやらを知ってるのか?」
「――」
サスケの問いに、姫君が一瞬詰まった。
その刹那。
「「「「!」」」」
カカシはを抱えたままオキナを、サクラは華玖弥を背中に庇うように構え、サスケとナルトはその視線の先、壁面のガラス戸へ臨戦態勢を整える。
その間僅かコンマ数秒。
「?」
唐突な行動に呆気に取られていた忍たちの声が上がるのと、全ての窓が盛大な音を立てて割られたのは同時だった。
「!」
「!」
飛来したのは数十もの手裏剣。
サスケとナルトは難なくそれらをかわし、手にしたクナイで打ち落とす。
「とりあえず、さっきの話は保留に。私たちの後ろから動かないで下さい」
少女一人を肩に担いだままの姿勢で、カカシは自分の元へ飛来したそれら全てをクナイ一本で叩き落す。
手裏剣による攻撃の範囲外に居たサクラも真剣な顔で、クナイを握り締めた。
オキナの呼び出した忍のうち、咄嗟に反応できたのは過半数。
残りの過半数は、ある者は急所にそれを受け、掠り傷を負っただけのはずの者も苦しげに膝をつく。
(…毒か)
それを横目で確認し、カカシは額当てに手を掛ける。
それも、恐らくは猛毒。
確かにこれは効果的だが、使う側のリスクも高い。もし何かの拍子に、自分に傷をつけようものなら一環の終わりだ。
それを敢えて使うのは、よほど己の技量に自信があるということか。
できれば、写輪眼を使わねばならない状況に陥りたくはないのだが。
ジャリ、と次いで現れた五つの影が畳の上に散るガラス片を踏んだ。
やはりこの国の忍びらしく、その服装は先だっての老人やオキナの部下たちとそう変わりはない。
が、何かの法則があるらしくオキナ側のベストは黒に近い紅なのに対し、彼らは紺だった。ちなみにあの老人のベストは黒だったが。
細身の茶髪の男に体格の良い黒髪の男、小柄な少年。そしてくの一の少女と女。
彼らの顔にはなんの躊躇いもない。
「そこに居られるは、三の姫であられる華玖弥様と存じ上げるが、相違ないな?」
五人の中心に立つ忍―茶髪で目付きの悪い男に射竦められ、華玖弥は怯えたように一歩足を後ろへ下がった。
その視線から、彼女を護るようにサクラが一歩踏み出す。
「だったら、どうだって言うんだってば」
ナルトが殺気を込め言うが、それにはちらりと目を向けるだけ。
「我が主の命により――」
サクラの目には、男の姿が掻き消えたようにしか見えなかった。
「っ!!」
(違う、右!)
「お命頂戴致す」
勘だけを頼りに目前に現れた男の一撃を紙一重でクナイで受け止め、けれど勢いを殺しきれずに横へと吹き飛ばされた。
「「サクラ!」」
「サクラちゃん!」
「くっ!」
(…させてたまるもんですか!)
そのまま華玖弥に踊りかかるかに見えた男が、一転後ろに飛び退った。
カッ。
飛ばされながらもサクラの放った手裏剣が、華玖弥を守るようにしてその一歩前に突き刺さる。
(やるねぇ、サクラ)
それが先程敵の放ったものであることが、カカシには分かった。
恐らく、地面に刺さっていたものの一つを掠め取っていたのだろう。
サスケが壁にぶち当たる寸前だったサクラを受け止め、ナルトが怯える華玖弥の前に立ちはだかったのを確認し肩からを下ろす。
オキナの部下たちもようやく状況を理解したらしく、警戒するように敵の様子を窺っている。
「オキナさん。どこかこの辺で多少騒いでも、人がこない場所ありませんか? あと、建物も少ない方が良い」
そう背後に、小声で呼びかけながら
――口寄せの術!
呼び出した大型の忍犬に、の体を背負わせる。
「人がこなくて、建物のない場所、ですか」
「ええ。ここでは、あまりに此方が不利だ」
術を発動するにしても、肉弾戦を仕掛けるにしても、室内ではやりにくいことこの上ない。
あちらも同じ条件だということだけが救いだが、生憎此方には非戦闘民二人。
時間が経てば経つほど此方が不利にはなっても、有利にはなりえそうもない。
現に今でさえ、周りを見ればサスケとサクラは少年と少女相手に苦戦し、オキナの部下たちは女一人に翻弄されている。ナルトは茶髪の男と睨みあっていた。
「…心当たりがないでもありませんが」
「何処です?」
「その前にお聞きしたい」
会話する二人に気を使う様子もなく、大男がカカシめがけて大刀を振り下ろす。
ガッとそれをクナイ一つで受け止めて、カカシ。
「何です」
「どうして我らまで庇われる。先程の貴方がたの様子から、今回の依頼は破棄された物と思いましたが」
「事情も分かっていないのに、見捨てるわけには行かないでしょう?」
寝覚めが悪いのは嫌ですから。
ギリギリと拮抗していた力は、カカシが身をずらし力を抜いたことによりあっさりと決着がついた。
勢い余った男はたたらを踏んでバランスを崩し、カカシの放ったクナイの一撃で地に沈む。
が、一瞬の後男の体は霞のように掻き消える。本体はいつの間にか数歩離れた場所で警戒するように、此方に大刀を構えていた。
「なるほど」
カカシの背後でオキナが頷いた。
「わかりました、案内いたしましょう」
「助かります。サクラ、サスケ、ナルト聞いたとおりだ。遅れるな」
「ああ」
「はい!」
「りょーかい!!」
言葉と同時、カカシがウエストポーチから取り出した煙玉が炸裂した。
【あとがき】 H18.11.26
戦闘シーン苦手なんです。。。でもってちょっと間、戦闘シーンが続く予定(は未定。もう書いてるけど全部直すかも/えー)。
どーか生暖かい目で見守ってやってください。
+追記(H18.12.10)
手直しするために読み直して、かなり設定つくってることを思い出しました。
ほんとに家の中で忍びが靴はいてるかなんて知りません(おい)
こういった感じでかなりナチュラルに嘘を練りこんだりしてますから、気をつけてくださいね(他力本願)。
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