映画や本のなかで語られるように主人公が映画の世界に、本の世界に入り込む。
 もしも、本当にそんなことが可能なら。
 そんな風に考えたことが無かったかと言えば嘘になる。
 実際、会えるものなら彼らと会ってみたいと思ったし、彼らの世界をこの目で見てみたいと考えたのは一度ではないのだから。
 けれどそれは、あくまでも。
 あそこに戻って来られるという前提での話だったのだと、愚かな私は今更ながらに気付いた。




第1章 『彼女の覚悟』



「おぉ、目が覚めたようじゃの」
「……」

 目が覚めると、そこは見知らぬ場所でした。

 あまりの展開に、彼女は目を瞬かす。
 因みにその部屋の中、自分はベッドに寝かされており、枕もとには見たことなどないはずなのに妙に既知感を覚える髭のお人が居たりします。
 にっこりと笑うご老人にうつろな視線を向けてから、はぼんやりと状況を整理した。

「……夢ね」

 老人の言葉に影響を受けたのかぼそりと英語でそう言って、掛布を引き寄せ寝直そうとしたところで止められる。

「こらこら、今ばっちり目がおうたじゃろ? 夢なんかじゃありゃせんよ、とりあえず起きてくれんか?」
「…何も聞こえないわ」
「そう言わんと、お嬢さん」

 うろんな瞳のまま、彼女は渋々起き上がった。カーテン越しの窓の外はまだ暗い。

「どこか痛む場所は無いかの?」

 問われて、は自分の体を見下ろした。努めて視界の端に映るずるずるのローブを見ないようにしつつ、考え込む。

 別に痛む場所は無い。強いて言うなら、少しばかりお腹が減っている気がするが…それはたいした問題ではないだろう。むしろ疑問なのは。

「無いけど……なんで泥だらけなの、私」
「まあ仕方なかろう。雨上がりの森の中で倒れていたにしては、まだましな方じゃて」

 からからと笑う老人を無視しつつ、森という言葉を反芻する。
 薬や消毒薬の臭いのする、病院…というよりは保健室。眼鏡で髭のローブを纏った老人。
 それから連想される、森。
 ハードカバーの幻想的な本の表紙が、脳裏をよぎる。

「君の名前を尋ねても良いかの? …それから、どうして君がこんな時間にあの【禁じられた森】で倒れておったのかも」

 在り得ない。
 否、在り得るわけがない。
 なのにその在り得ない答えに行き着いてしまう自分の頭は、どうかしてしまったに違いない。
 老人が不思議そうな顔をするのにも構わず、は己の頬を力一杯ひねった。

(……痛い)

 夢じゃない。
 ならばこれは現実ということか?
 けれど、それならこの状況は一体――?

「どうしてって言われたって……わからない。私にも全然分からないよ。だって今の今まで、家に居て、書斎で本読んで、それから…」

 声に出しながら、混乱する頭で必死で考えを纏めようとする彼女に、敢えて口は挟まず老人はただ彼女を見つめている。
 自分の部屋に戻って。
 親友が慌てた様子で自分に家から出るように言って。それから…。

「……そうよ、落とし穴っ!」
「?」

 再び首を傾げる老人に構わず、彼女はひたすら回想する。
 真っ黒な、新月の夜のそれよりも更に闇を凝縮したようなその穴に、自分は。
 そこまで考えて、は勢いよく老人を振り返る。

「どういう理屈かはわからないけど、あの穴、貴方の仕業なんでしょ! ここがどこかしらないけど、さっさと私を家に帰して!」

 その眼光は先程までとは打って変わって、刃物のそれより鋭かった。

「確かにうちの父親は仕事馬鹿だし、母親はいつまでたっても乙女だし! けど、あれでも私のことはちゃんと想ってくれてるの! それでもって私は絶対あの二人の心の負担にはならないって決めてるんだから! なのにこんな場所に人にかどわかしてくれちゃって……ああ、しかもそんなおかしな格好して、コスプレでもしてるつもりなの? オタクは日本の専売特許じゃなかったっけ!?」

 元凶はこいつだ――何の根拠も無い、推測。
 それでも、それにすがりつかねば頭がおかしくなりそうだった。
 キッと睨まれ、一方的に怒鳴りつけられた老人は一瞬きょとんとした後、怒り出すわけでもなく少しだけ困ったように微笑した。

「お嬢さん、きみが何に対してそんなに怯えておるのかわしにはわからんが―――、少なくとも、きみがここに居ることにわしが関わっておらんことはお嬢さん自身、気付いておるんじゃろう? だから、ほれ」

 老人が指差した先、掛布を掴んだの手は知らず知らずの内に細かく震えていた。
 だが彼女は老人の言葉には答えず、ふいと自分の手からも老人からも視線を反らした。
 独りごとのように呟く。

「……帰る」

 ベッドから降り、素足で立ち上がったの腕を老人が掴み引きとめた。

「離してっ、私は帰るんだから!」

 の瞳に視線を据えて、老人は首を横に振る。

「駄目じゃ。きみはここがどこか知らんと言った。なら、わしが教えよう」
「いらないし、頼んでないし、頼まない。貴方が帰してくれないなら、私は自力で帰るっ」
「どこに?」
「家に、決まってるでしょ」

 半眼で見返せば、彼は静かに問うた。

「では、どうやって?」
「…!」
「森できみが倒れているのを見つけたのは、わしではない。フィレンツェ…ケンタウロスの青年のことじゃが、彼が森の番人のもとまできみを運び、番人はこの部屋にきみを運び、そしてわしを呼んだ」

 何も言えないに老人はとつとつと語りかける。

「フィレンツェはきみのことを迷い人だと言っていたそうじゃ。何が原因かはわからんが時空がひずみ、ここではない彼方の世界…異界と森が一時的に通じたせいだろう、とも。恐らく、この世界はきみの住む――」

 皆まで言わせず、思わずは叫んでいた。

「そんなのどうしてわかるのっ!」

 握り締めた拳は真っ白になって。
 けれど彼女は力を緩めない。

「異界!? 何よ、それ。意味がわからないわ! そんな馬鹿げた話があるわけ無いじゃない! 貴方がこうやって英語を話してるってことは、確かにここは日本じゃないのかもしれない。けど、あくまで『英語』よ。私が知ってる、使ってる『英語』でこうして通じてる」

 そうよ、と彼女は言った。
 意味がわからないと言いながら、そんな話は在り得ないと、意味を理解していなければ言えないはずの叫びを口にしている、己の矛盾にすら気付かずに。

「きっと、父さんがまた出張になったんだわ! それで私は迷子になって。今はちょっと混乱しているだけ、落着けばちゃんと思い出すはずよ!」

 ね、そうでしょ。そうに決まってる。
 言葉とは裏腹に、想いとは裏腹に。の声は、その表情は今にも泣き出しそうだった。
 そんな彼女に老人は痛々しい傷を見たように、顔を曇らせた。
 ずるいよ、そんな顔。そんな表情を見せられたら、嫌でも現実を見てしまう。
――本当は。
 わかっている。彼が、何を言おうとしているのか。
――だけど。
 わかるわけがない。だって、彼が自分の知っている彼であっていいはずがない。
 だって、それを認めた瞬間に私はきっともう戻れなくなる。

「きみはもう気づいておるんじゃろう?」

 静かな声に、はびくりと動きを止めた。

「異界が、この世界ではない別の世界が存在するかどうかなど、わしにはわからん」

 軽く肩に手を置かれ、はすとんと力なくベッドに座り込んだ。

「だが、少なくともお嬢さん――きみはここが自分の生まれた世界ではないことを、すでにもうわかっておるんじゃ。どうやってかは、わしにはわからんがの。間違っておるかな?」

 その問いに、は答えなかった。
 長い長い沈黙。
 どこかで時計の針がコチコチと音を立て。
 やがて、ようやくは弱弱しい声で小さく呟いた。

「…………おじいさん、教えてくれる?」

 彼の言葉は正しい。
 だっては気付いていたのだ、最初から。
 それこそ、目が覚めて、彼の姿を目にしたその瞬間から。
 ここが生まれた世界では在り得ない事を。
 ただそれを口にしなかったのは、出来るのなら認めたくは無かっただけで。

「…ああ、なんじゃ?」
「ここはどこで、貴方はだれ」

 疑問系でありながら問う響きのないその問いに、老人から戸惑う気配が伝わってきたが、はただ黙って答えを待った。

「ここはホグワーツ魔法学校。わしは…」

 何かを諦めるように瞼を閉じたに一瞬呼吸を止めて、しかし彼は続けた。

「アルバス・ダンブルドア。ホグワーツの校長じゃ」

 ああ、やっぱり。
 その言葉に、は唇を白くなるほど噛む。
 聞いてしまった以上、知ってしまった以上。
 もう後戻りは出来ないだろう。現実から目を背けることも。

「………………そう。私は……

 やがて搾り出すようにしてそう名乗ると、正面からダンブルドアの顔を見上げた。

「フィレンツェさんの言う通り、私が落ちたあの穴が時空のひずみなんだと思う。貴方の言う通り、私はこの世界の住人じゃないもの。私の世界では――」

 少しだけ、考えるように間を置いては呟く。本当のこと、即ちあの本の存在を告げるべきか否かを少しだけ躊躇って。

「ケンタウロスは空想上の生き物だもの」

 言って、彼女は静かに横になり、両腕で顔を覆う。
 全てを拒絶できるものならそうしたかったけれど、それはもう叶わない。
 あの穴に落ちた自分だから分かる。あれは人が簡単にどうこうできるものじゃない。
 ここは魔法の国だけど――もし、自分を返す方法が今ここにあるのなら、あのダンブルドアがそれを口にしないはずがない。
 そんなことを考えていると彼女の背中に声がかかった。

、諦めてはいかんよ。きっときみが家に帰る方法はある」

 真摯な声と、その言葉。その言葉にふと緊張の糸が切れるのを感じる。
 それが確証があっての言葉なのかは、今はどうでもよかった。
 自分はもうその言葉に縋るしか、己を支えるすべを持たないのだから。
 そして、心を決める。
 絶対にあの家に帰るのだと。
 シーツを無意識に握り締めながら、彼女は答えを返す。

「わかってる。諦めろって言われても、諦めてなんかあげないわ。――でも。お願い、今は少しだけ放って置いて」

 ただ、今は全てを受け入れるために時間が必要だった。

「ああ、そうじゃの。今はゆっくりお休み」

 その言葉と頭を撫でられる感触を感じながら、彼女は涙と共に眠りに落ちた。



   *     *     * 



「眠ったか…」

 押し殺した嗚咽が、静かな寝息に変わった頃。彼は静かにそう呟く。
 それを待っていたかのようなタイミングで、医務室の扉が開いた。

「アルバス、どうでしたか」

 歩み寄ってくる気配に振り返ることもなく、少女の背中を見つつ答える。

「貴女が心配しとるようなことはではなかったよ、マクゴガナル先生」

 少なくとも、この少女は『あの人』の手のものではない。
 そうですか、と安堵の息を吐く彼女にダンブルドアは苦笑した。

「むしろ、ある意味それ以上に厄介な存在ではあるがの」
「それはどういう意味でしょう」
「彼女は異世界からの訪問者…いや、迷子じゃよ」
「………異世界?」

 マクゴガナルは眉を潜めた。
 それを責めるわけには行くまい、それが普通の反応であろうから。

「フィレンツェの言葉とは言え信じがたい話じゃが…、彼女の様子から見てまず間違いはないじゃろう。それ以外に、彼女がここに居る理由は説明できんからの」
「では」
「ああ、森のどこにも結界が綻んだ形跡は無かった……となれば彼女は『姿あらわし』以外の何らかの方法で、突然あの場所に現れたことになる。時空のゆがみというのが一体どういう原理のものかは知らんが、それが結界内に現れたというのならば、それしか方法は無かろう」

 すまんが、と彼は彼女を振り返った。

「この子に怪我はなかったから、心配せんでいいとハグリッドに伝えてきてくれんか。随分心配しとったからの」
「それはそうでしょう、あそこに居るのはケンタウロスや一角獣ばかりではありませんもの」

 わかりました、と彼女は頷いてこの部屋を後にした。
 入れ違いに、鳥の羽ばたき。

「フォークス」

 肩にとまった鳥の名を彼は呼び、それから主従揃って少女の寝顔に視線を落とす。
 その横顔は平和で、けれど頬に残った涙の跡は痛々しい。

「この子は聡いよ」

 目が覚めたその時に彼女が何に驚き、何を知り、何を思って自分から目を反らしたのかは知らない。
 どうやって、ここが自分の生まれた世界でないことを知りえたのか分かるはずもない。
 分かるのは、彼女が口にした理由だけではないことくらいだ。
 しかし、わかることもある。
 それこそ、短時間で自分の身に起こったことを理解できてしまえるくらいに。
 その事実を夢だと無意識に現実から目を反らそうとしても、それでもそれが現実だと理解出来てしまえるくらいに、彼女はとても聡い。 

「そして強い子じゃよ、見て居るこちらが辛くなるくらいにの」

 たった十やそこらの子どもが、唇を噛み、声を押し殺して泣く。
 それは彼女の強さであるのだろう。
 取り乱して泣き喚くわけでなく、八つ当たって暴れるわけでもなく、感情をぶち撒けるわけでもない。
 ただ、現実を己の心に納得させるために、己の心を押し殺し、そうして堪えきれずに彼女は唇を噛んで泣くのだ。
 泣き喚いてくれた方がよっぽどマシだ、と彼は思った。

「フィレンツェに伝えてくれ、この子は私が預かろうと」

 この子がこれまでどんな道を歩んできたのかは知らない。
 けれど明日目覚めれば、彼女は全ての現実を受け入れていることだろう。
 ダンブルドアにはそれがとても悲しいことのように思える。
 不死鳥はそんな彼に一声鳴いて飛び去った。



   *     *     *



 覚醒したとたん、は己の愚かさに穴があったら入って蓋をしたい気分になった。
 昨晩のことはしっかり覚えているし、この期に及んで、再びこれは夢だとか、家に帰るだとか喚くつもりは毛頭無い。
 泣くだけ泣いて、一晩ぐっすり眠ったおかげだろう、頭はすっきりしており思考は正常に働いている。
 夢現に現状を受け入れる準備を整え、自分なりの仮説すら立ててある。
 そしてだからこそ、むしろ今の心境は。

「おはよう、。よく眠れたかの」

 タイミングよく保健室の扉を潜ってそう朗らかに笑ったダンブルドアに、彼女はベッドの上で佇まいを治した。
 訝しげに目で問うて来た校長に構わず、正座になった彼女は、

「昨日は本っっ当に! すみませんでしたぁっ!」

 いきなり土下座した。
 もろに体育会系のノリであるが、彼女は実に真剣だ。

「、?」

 わけがわからない、と狼狽する声に彼女は自分の行動の理由を補足する。

「昨日は本当にごめんなさい。助けてもらってお礼を言うどころか、八つ当たりの上誘拐犯扱いしたりして…」

 土下座の姿勢から体を起こしたは、顔を上げることができなかった。
 一方的に知っていたとは言え、実質的には初対面の人間に、しかも恩人である人に向って、自分は一体何を口走ったのか。
 考えるだけで恥ずかしく恐ろしく、昨夜の己が恨めしい。

「なんじゃ、そんなことか。なら謝る必要なんぞありはせんよ。わしは一向に気にしとらんからの」

 ダンブルドアは穏やかな笑みを浮かべている。
 だが、その優しさを受け入れるわけには行かないのだ。
 は顔を伏せたまま首を横に振る。

「そんなことなんかじゃないよ。私はたくさん貴方に酷い言葉をぶつけたのに」

 なのに、私は厚かましくも彼を利用しようとしている。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい、だけど」

 これしか私には方法が無いから。

「迷惑を掛けるのは承知の上でお願いっ、私をホグワーツに置いて」

 優しいひだまりのような老人が、なんて厚かましい子どもだろうと顔を顰める様なんて見たくなくて、間を空けずに彼女は言葉を続けた。

「雑用だろうと何だろうと、言われたことなら何だってするから。寝る場所も木切れかダンボールでも分けてくれればどうにでもするし、食事だって森があるんだし自力でどうにかする」

 さらりとサバイバル生活を宣言しながら、彼女はようやく顔を上げる。
 ダンブルドアの顔には恐れていた侮蔑のそれも無い代わりに、何の表情も浮んではいない。
 それでもはここで引き下がるわけにはいかなかった。

「ここで帰る方法が見つかる保障はないわ。けど、私が倒れていたのはここの森で、そしてここは学校なんでしょう? なら、当てもなく彷徨うよりは、ここで」
「それは駄目じゃ」
「――」

 あっさりと。
 当然のように言われて、彼女は再び俯いた。
 もちろん落胆はあった。だが、例え許可はなくとも、最悪無断で一人、森で暮らすくらいの決意がにはある。
 そう、ならいい。もう頼まない。
 そう口にしようとした彼女の前で、ダンブルドアは悪戯っ子のように笑いかけた。

「なんせ、きみは今年からホグワーツに入学するんじゃからの」
 
 くつくつという笑い声を、は呆けた顔で聞く。

「生徒にダンボールの小屋で暮らさせるわけにはいかんな。禁じられた森で食糧の調達なんぞもっての他じゃ。あそこはなんせ生徒は立ち入り禁止じゃから」
「に、入学? 誰が」
「きみが、じゃよ」

 当然のことのようにそう言われて、もう少しで納得してしまいそうになった。

「どうして! だって私は魔法なんて使えないし……それに、お金だってない!」

 授業料や教科書代以前に、今日のご飯を買うお金すらもっていない。
 あるのはポケットにいれたままのタロットカードくらいだ。

「なに、授業料なんかはわしが立て替えて置こう。返済は出世払いで構わんよ、いくらなんでも一年や二年では、かたはつかんじゃろうて。利子は時々わしのお茶の相手になってくれればいい。教科書代は、入学式までまだ時間があることだし…そうじゃの、わしの仕事を少し手伝ってもらおうか」

 うきうきと、の目が点になっているのにも構わずに、それはそれは楽しそうにダンブルドアは人差し指を立てて言う。

「いや、だから私は魔法なんて」
「使えない? 本当に? 確かめたことは?」
「……そ、そりゃあない、けど」

 少なくとも普通に暮らす上で、そんなことを確かめようとすら思いつかないはずだ。彼女が生まれた世界はそういう場所だ。
 なのにダンブルドアはごく当然のようにこう言った。

「心配せんでも、、きみは間違いなく魔法を使えるはずじゃ。現にほら、きみはここにおるじゃろう? もしが魔法使いでないのなら――この学び舎は、きみがここに居ることを許さんよ」

 言われて、己の両の手の平をまじまじと見詰め、それから戸惑ったようにダンブルドアと視線を合わせた。何をどこから言うべきか、全く見当がつかない。 

「それともこの学校で学ぶのは嫌かの?」
「嫌じゃないけど」

 決して嫌ではない。それどころか願ってもない誘い。
 だというのに、何か、こう、納得がいかない。

「喉に何か引っかかるって言うか、何て言うか。本当にホグワーツに入学できるなら、これ以上に嬉しいことはないし本当に嬉しいんだ、け、…ど――――…にゅう、がく?」

 繰り返し、はようやく違和感の正体に気付く。
 本の中で、ハリーポッターがホグワーツからの手紙を受け取ったのは何歳の時だっただろう。

「どうしたんじゃ?」
「……新一年生?」

 自分を指差して、首を傾げる。

「そうなるの」
「…ってことは十三歳の一年生?」
「……すまんが、今なんど?」
「十三さい」

 サーティーン。
 自分の鼻先を人差し指で指しながら言ったとたん、面白いくらいにダンブルドアは絶句した。
 『十歳くらいだと思っていた』とその顔にありありと書いてある。は目の前の老人を溜息を吐きながら見つめて。

(日本人は総じて童顔に見えるからなのか、それとも私の背が標準以下だからなのか)

 できれば前者であって欲しいところであるが。

「ね。今、このサイズでどこが十三? とか思わなかった」

 尋ねれば、引き攣った笑顔が返り、ついでにその頬を冷や汗が伝う。

「まー、大丈夫じゃ」
「いや、大丈夫って何が」

 突っ込むが、ダンブルドアは聞いていないふりをする。

「それには魔法の基礎から始めねばならんからの、どちらにしても一年生からやらねばなるまいて」

 言いながらあさっての方向を向くダンブルドアを見る限り、日本人云々以前の問題である線がかなり濃いようだった。

「まーね? いいよ、別に? どうせ見た目はチビッコ、電車だって小学生料金でオッケーだったのは事実だからね」

 いつまでも不毛な会話を続けても仕方ないので、彼女は追及を断念することにして、軽く息を吐いた。もう突っ込みが入らないことを察してか、ダンブルドアがこちらを向く。

「それより、本当にいいの? 私なんかがこの学校に入学して」

 その目を捉え、心配になって尋ねると、もちろんじゃと彼は頷いた。満面の朗らかな笑み。

「むしろ大いに大歓迎じゃよ。きみが一日でも元の世界に戻れるよう、わしも誠心誠意努力しよう」

 どこまでも優しい老人に、はこの世界に来て初めて頬を緩めた。

「それじゃあ、校長先生。この度は入学をお許しいただき本当にありがとうございます。これから私が元の世界に戻れる日までどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、ミス・。さて、話が一段らくしたところで、ちと遅くなったが朝食にしようかの?」

 そのお誘いに、心から微笑んで彼女は答えとした。





















H18.11.22(書いた日はもっと前ですが、本日アプ


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